お知らせ 【旬なニュースを解説!】CO2を大気から直接回収 脱炭素を担う新技術
大気中のCO2を直接回収するDAC(direct air capture)という技術が注目されています。大気中に含まれるCO2濃度は僅か0.04%(400ppm)と低濃度であり、排ガス等からCO2を回収することと比較し非効率と感じるかもしれませんが、実は大きなメリットがあります。一つ目に、石炭火力発電所の廃止や再生可能エネルギーの導入といった既存の経済活動への制約、社会構造を変更する必要がないこと。二つ目に、CO2の貯留や利用など用途に合わせた回収場所が選択できること。三つ目に、既に排出されたCO2でも、将来任意のタイミングで一定の濃度までCO2を回収するといった柔軟な対策が取れることなどが挙げられます。
海外ではカナダのカーボンエンジニアリング社、スイスのクライムワークス社、米国のグローバルサーモスタット社などが先行して実用化を進めています。カーボンエンジニアリング社は、2015年からカナダのブリティッシュ・コロンビア州で実験プラントを持ち検証を進めていますが、現在テキサス州西部パーミアン盆地にオクシデンタル石油の子会社と提携し、年間最大100万t規模のDACプラントを設計、2022年から建設する予定です[1]。クライムワークス社は、アイスランドで地熱発電所から流れてくる水を利用して、大気から直接回収したCO2を地下に送り込み、炭酸塩として地下に貯蔵する設備を建設中です。アメリカのグローバルサーモスタット社は、カリフォルニア州とアラバマ州にパイロットプラントを持ち、新たにコロラド州に実験プラントを建設中です[2]。
日本でも、神戸学院大学の稲垣冬彦教授がCO2の吸収・放出材の開発、九州大学の藤川茂紀准教授らが膜分離によるCO2回収の研究を進めています。例えば、海外で先行している技術は、大型ファンで大気を集めてCO2を吸収させるため、大規模な土地・設備が必要ですが、膜分離の技術が進めば、小型のCO2回収装置が設計可能になるかもしれません。DACの普及を進めるには、家庭やビルなど場所に応じた規模で設置できることも重要になります。小型化という点では、炭素回収技術研究機構(CRRA)村木風海機構長が開発した「ひやっしー」というスーツケース型のCO2回収装置も既に存在し、今後CO2回収が身近なものになる可能性を秘めています。
課題はコストになります。CO2回収方式にも違いがみられますが、まだまだ全体としてCO2分離には多くのエネルギーを要し高価です。ただし、カーボンエンジニアリング社が、当初600ドル/t-CO2程度と言われていたCO2分離技術を技術開発にて大幅に下げる[3]など、各事業者でコストダウンが進められています。
2021年1月31日 日本経済新聞 「CO2を大気から直接回収 脱炭素を担う新技術」
参考資料
[1]2020年8月19日 Carbon Engineering Ltd. Oxy Low Carbon Ventures, Rusheen Capital Management create development company 1PointFive to deploy Carbon Engineering’s Direct Air Capture technology
[2]2020 年 7 月 28 日Congressional Documents and Publications Senate Energy and Natural Resources Committee Hearing; “Development and Deployment of Large-Scale Carbon Dioxide Management Technologies.”; Testimony by Sasha Mackler, Director, The Energy Project, Bipartisan Policy Center
[3]2018年6月8日 BBC NEWS JAPAN 二酸化炭素を大気から吸収する新技術 加企業、低コストで